「誰かを大切にしたくてイカれそう」

 

朝起きたら、上記の文面のLINEが元恋人から届いてて、寝起きの頭でも反射的に、きもっ、となった。

元恋人は感受性が豊かすぎるが故に、一定の頻度でさみしさや停滞からトチ狂っては、定期的に気持ちの悪い連絡を寄越してくる。

 

とはいえ元恋人のこの現象にはもう慣れたもので、また言ってら、ぐらいにしか思わない。

なんなら季節の変わり目に起こりやすい現象なので、そういう文面が届いたときには、そうかもう冬だな、とか、もうすぐ夏も終わるなあ、とか、そういうことを思う。

 

寒くなって煙草がますますうまくなったり、飲み屋から出た直後の生ぬるい空気が肌にまとわりつくのと同じように、月日が流れていることを不意打ちに知らされて、しみじみしてしまうような感じ。機能的な元カレ通信。

 

世間の女性たちからすれば、元恋人から定期的に気持ちの悪いLINEが届くのなんて、阿鼻叫喚ものだろう。元カレ通信改め地獄通信もいいとこだと思う。

わたしも友人に、つきあってた人からこんな連絡がきた、と言われたらやば、とか、ウケる、とか、とにかくめちゃくちゃでかい声で叫んでしまうと思う。だって実際きもいし。

 

でも、反射的に、きも、とは思うけど、なんだかんだわたしは、そういう言わなくてもいいことを頼んでもないのにいちいち律儀に言葉にしてくる、ある種の誠実さというか愚直さを持ち合わせてる人が好きで、

だから別れてからも、その人のそういう部分は人間らしくて好ましいところとして健在している。

 

唯一げんなりするのは、やっぱこいつとわたしって似てんなあ、という自己嫌悪が他人の行為によって呼び起こされるということで、この元カレ通信には定期的にわたしを恥じ入らせる機能も備わっている。

だってわたしも楽しく酔っぱらったり、考えごとしてるうちに変なテンションになったら好きな人たちに片っ端から連絡したりする癖あるもん。最悪。生き恥。

 

他人を透かして見える自身の気持ち悪さや愚かさほどきついものはない。自分に対する嫌悪と羞恥のせいで、なんの罪もない他人が見てられなくなり、嫌悪感を抱いてしまうこの感じ。

自分がきもいのが悪いんだけど、それでも一種の拷問では???

 

誰かをそんなに大切にしたいなら自分か家族のことでも大切にしときゃいーだろ、と思いつつ、奴が言いたいことはそういうことではないのもわかっていたので、既読をつけただけの状態で大学へ行く準備をした。

 

映画のプレゼンが最終試験になる講義には少し遅刻した。適当に組んだグループだから仕方ないとはいえど、あまりにも発言しない女の子たちにげんなりしたため、周りが4、5人で組んでるなか、ひとりでやることにする。

教授が、期待してます、と言ってくれたので、一気にやる気がみなぎる。ちょろい。

 

この講義の教授は生徒に対して上から目線になることもなく、脳味噌を使わない若者をめちゃくちゃ見下してる感じはあれど、わりと対等に話してくれるから好きだ。

どことなくサイコパスっぽさのある教授はまさかの既婚者で、他人をここまでリラックスさせない空気感の人間と結婚したのはいったいどんな人なんだろうと、つい失礼なことを思ってしまう。世の中には不思議が満ち溢れているね。

 

講義後、速攻で帰るつもりが携帯の充電が切れたので、帰宅までの暇つぶしに本を適当に4冊借りた。

絶対理解できないから読まないほうがいい、と誰に言われたわけでもなく妄信的に思っていたために長年手を出してこなかった円城塔を、ついに根負けして借りてしまった。

 

家のそばで信号待ちをしていたら、そろばん教室の前の掲示板を見ながらアキレス腱を伸ばしている女の人がいて、ちょっと笑ってしまった。

 

バイトまで仮眠をとって、予定通りの時間に起きたら信じられないぐらい眠すぎてつらすぎて、無理だ、となったので5分後にアラームをセットして、起きてから形だけの逡巡をして、休みの電話を入れて、寝た。

 

その後、島本理生の短編をさくっと読んで、連絡もちゃんと返して、優しい先輩がくれたps4でシムズをプレイしてから、獣になれない私たち最終話に思いを馳せつつ、入浴し、ベッドの上でこの日記を書いてるところでまた変な文面が届いたので、無視して寝る。