糸切り歯の尖った男を見るとどきどきするなんて知らなかった。
八重歯でもなく、その4本の歯がきちんと収まっていて鋭く尖っているということ。
めっちゃいいじゃん素敵だねと褒めたら、そんなの人生で言われたことがないと言われて、そのウケようを見て、確かにわたしも人の歯の尖り具合褒めたのは初めてだと気づいた。
出会ってしばらくした人間の手や首や皮膚や目を褒めることは男女問わずあって、それはごく自然なことで、そのなかで官能的な部分というのはその手や睫毛の長さや肌のテクスチャーだと思っていたけれど、まさか歯に色気が宿るなんて。
その鋭さで気まぐれに皮膚をえぐってきたうちの犬の歯を見ても全然どきどきしないのに。人間の歯にどきどきするなんて。すごい。確かにヴァンパイアものは好きだったけれど。
あと2年は人生停滞確定だと思ってたけど、案外そうでもないのかもしれない。
楽しむのは得意なので、どんとこいという気持ちになってきた。在宅だって全然楽しめる。
もう自分を楽しませるために強く思い込んで突っ走って大事故を起こすのは嫌なので、程々に日々を楽しめれたらそれでいいと思えてきた。なんか、大人になったな、昔は毎日がジェットコースターであればあるだけいいと思っていたのに。
落差があってこその人生だと思っていたのに、日常に目を向けるときが来るなんて。
人生なんて所詮日常の地続きだしな。
ゲームがしたくてしたくてたまらないのにB-になってきゃっきゃっしたいのに、好きな男と同じ壇上に登ろうとして毎晩勉強を頑張っているわたしはえらい、動機は不純でもめちゃくちゃえらい。
人がいい、が取り柄の会社は確かに本当にみんないい奴で、わたしもそれを基準に選ばれたんだなと思うと感慨深い。
就活、だるかったな。またあれやんのかと思うとだいぶうんざりする。
姉がそろそろ東京に帰ってしまいそうで嫌すぎて、毎日、帰ってほしくないと言ってしまう。
姉が帰ったらわたしは誰と最近の世の中について話せばいいの誰と夕食後に踊ればいいの。
父親や母親の代替はどこかしらで賄えそうな気がするけど、姉の代替は誰にもできない、唯一無二。
姉を盲目的に好きだった時期もあったけど、今は姉が一人間で矛盾していたり心底ムカつくときもあるとわかったうえで姉が大好きだし、最高の姉妹だと思うので、幸せものだなわたしは…
まさかこの歳でもこんなに姉が好きでこんなに仲良くいられるとは思ってなかった。嬉しい。
最高の姉に最高の兄、そして最高の両親が揃っていればわたしの人生はスリーセブンでロイヤルストレートフラッシュで上がりだったんだろうな知らんけど。
でも足りない分は補えばいいし、という考えの時点でほんともう自分が遠くまで来たんだということを感じてその不安定なたくましさに涙がちょちょ切れちゃうね。
お金もだし人脈も、いつかの誰かのために大切にしていきたいな~と思うけど、なんだろう、でもやっぱ人生思いやり感謝絆が至高みたいなのは嫌いなので、どうにかしたい、社内評価のためならお礼メールも山のように送るぜ俺は。
シングストリートが好きだという先輩がいて、部屋にドリームキャッチャー飾ってるわりにいい趣味してんなと失礼なことを思ったりした。
シングストリート、いいよね。わたしもサントラ入れたよ。
映画館に早く行きたい、映画館はひとりで行っても誰かと行っても楽しいし、素敵な場所なのでなるべく守っていきたい。
好みのタイプは自立してる人だという同期の男、趣味よすぎだし素晴らしすぎ。
起業したいフリーターの恋人に9万貸してと言われて悩んでいる同期の女と彼の恋愛世界の差について思いを馳せてしまう。
お金を貸すのが悪いこととかっていうんじゃなく。みんな起業したがるのすごいな、いちご農家になるほうが大ゴケせずに金持ちになれそう。でもそういうことじゃないんだろうな。
お金とロマンも両立していきたいし、みんなが健やかに生きていけるといいよねえとか思いつつ、自分と周りの大切な個体たちが健やかに生きていけるかどうかがぶっちゃけ一番大事だと思うしそこに関しては嘘つけない自分、えらい、でもできればみんな幸せであってほしいね。でも阿部は嫌い。ほんとやな奴だな。
政治の話を遮断する奴らは今後どんだけ税金が上がっても文句言うなよ、と思う。政治は生活の地続きだってなんでもっと早く教えてくんないの大人。
この歳でようやく気づいたよ。なので生活の話をこれからもしていきたい後世のためにも。
自分に後世なんて概念があるとはな~不思議だな加齢って。